化粧品専門店向けブランド

ベネフィーク開発

 

ここで言う化粧品専門店とは、昔ながら全国津々浦々にある町の化粧品屋さんのことです。デパートやスーパーマーケット(GMS)、ドラッグストア、コンビニエンスストアなどの組織小売業とは違い、どちらかと言うと個人経営の小規模小売店を指します。

 

1. 発端

近年勢力を増したドラッグストアやコンビニエンスストア、スーパーマーケットなどのフリーアクセスショップとは反対に位置するのが、カウンセリングを通して販売する町の化粧品屋さんです。長い間、その一店一店が化粧情報の発信基地として重要な働きをしていました。その時々の最新ファッション・化粧情報をはじめ、季節毎の化粧情報、また化粧初心者のための基礎情報などがカウンセリングを通して発信されてきたのです。そして、その影響力は、化粧文化を作り上げてきたと言う意味で絶大なものでした。

 

資生堂をはじめ、制度品と言われる化粧品メーカーは、そのような全国の化粧品屋さんを系列化してきました。資生堂が1923年(大正12年)に作り上げた チェインストア制度と呼ぶ系列化システムです。その画期的なシステムにのり、商品と情報が均一品質で提供されていたのです。

 

しかし、流通環境の変化によって商店街が弱体化し、様々な業種で多くの零細小売店が淘汰される時代がやってきました。GMSに始まり、ドラッグストア、コン ビニエンスストア、更にはネット通販など、化粧品を購入するチャネルは時代を追って多様化してきました。町の化粧屋さんも例外でなく、その影響を受けるようになって来たのです。

 

加えて、ディスカウントの攻勢に負けた店、後継者がいなくなった店なども閉店する一方で、これまで以上の経営努力をし、存続していこうとする店も少なからず出てきました。化粧品の専門店として、より高品質の情報サービスを提供していこうとする生き残りへの進化が始まったのです。

 

メー カーとしてもそのための支援をすべく、様々な政策を打ち出すことになりました。その大きな政策のひとつは、化粧品専門店専用ブランドの投入です。フリーアクセスチャネルでディスカウントされるようになったブランドではなく、安心して販売していける自分達のチャネル専用のブランドです。専門店としての価値が発揮できるばかりでなく、経営的な安定も保証するブランドが各制度品メーカーから投入されることになったのです。

 

いきなり、私に指示が飛んできました。1995年秋のことでした。長期計画には無かった専用ブランドの開発です。それも、大至急なのです。方向性だけでも翌週に提案しなければなりません。

 

担当スタッフを編成して指示をしようにも、自分自身もまだ方向付けが出来ていません。自分で企画するしかありません。とりあえず、3つの方向案を作り、提案しました。かなり荒っぽい提案でしたが、ひとつの方向に絞られ、スタートすることになりました。

 

そうは言っても、 メンバー的に余裕があるのは新人スタッフだけ。通常の開発スケジュールではないため、任せきることが出来ません。結局、自分で企画立案をすることにし、新人にはサポートにまわってもらうことにしました。(後に、ベテランスタッフに担当を替わってもらいました。) 久しぶりの商品企画です。スケジュールを含め、かなり大変な課題でしたが、自分としては結構楽しんでいたように思います。

 

2. ポジショニングとコンセプト

さて、どうしよう。いきなり降り掛かって来た新ブランド開発の指示。それもチャネル政策のためのブランドなのです。

 

売上の、そして経営上の中核をなすブランドにしなくてはいけません。既存のブランドとしては「エリクシール」という基幹ブランドがあり、それに対応するブランドということ になります。フリーアクセスチャネルで「エリクシール」がディスカウントされているのに対し、化粧品専門店限定のディスカウントされないブランドを作り上げるのです。

 

単に新しいブランドを開発するのであれば、色々な方向が考えられます。しかし、それではただブランドがひとつ増えただけに終り、むしろ資生堂全体のブランド体系を曖昧にしてしまいます。そこに、何かしら意味のあるコンセプトを持ってこなければなりません。

 

キーワードは、「エリクシール」と「化粧品専門店」でした。

「エリクシール」 は、資生堂を代表する中核ブランドであり、資生堂の技術がそこに集められています。設計は、肌のモイスチュアバランス理論をルーツとして科学的に組み立てられたスキンケア理論がベースになっています。その隣に、価格帯が同じで、似たようなブランドがあってはいけません。専用ブランドを置くと言っても、お店 によっては、既存のブランドも一緒に販売していくのです。それでは、売り分けが難しくなってしまいます。買う方も迷ってしまいます。

 

そこで採り入れた のは、カウンター ポジショニングの考え方です。相対する価値を置くことで、それぞれの意味・価値を明快にさせることです。言ってみれば、白か黒かです。これによって、売り分けがしやすくなります。自動車メーカーで良く行われているように、基本型は全く同じ車でも系列店別に異なるブランドで配置するといった方式は採りませんでした。前にも書いたように、両方を販売するお店があるからです。また、専門店として推奨・カウンセリングする上で、独自の価値による優位性も出せなくなるからです。

 

対立関係としては、これまでの「西欧的」に対し、「東洋的」を選びました。対症療法に対して全体バランス。ケミカルに対して自然。権威による説得に対して伝承による共感。このような対立概念を設定しました。資生堂としては、これまであまり重きを置いていなかった方向です。

 

店頭での販売場面も想定しました。お客さんから見ると従来からある化粧品専門店は、比較的最寄り立地にあります。非常に親しい関係にあるお馴染さんの関係です。敢えて言うと、店頭は「井戸端会議の場」なのです。そのような関係で伝わる情報とは・・・? 大きなヒントが頭に浮かびました。「おもいっきりテレビ」です。その中で、みのもんたが話すような生活に密着した情報とその提供の仕方です。

 

「アロエって○○ にいいらしい。」とか、「朝鮮人参は○○によく効くんですよ。」、「実は、このような組み合わせで食べるとカラダにいいんだ。」など、身近なモノと身近な 悩みで説明されるとよく理解するし、共感・納得してしまいます。また、肌のトラブル解消について語るよりも、肌が健康で美しさを保てる知恵を語ることも大切です。それも、素人のお嬢さん(みのもんた流)が理解できるようにです。 

 

専門店としてはカウンセリングをするのですが、難しい理論の説明では伝わりません。お店は、最新の科学情報に基づいた情報をメーカーから聞いて一生懸命に勉強します。しかし、お客さんに伝えるのは至難の技です。伝える方にも受ける方にも無理があるのです。

 

もうひとつのヒン トは、「養命酒」。私は、今回の化粧品を「肌の養命酒」としました。所謂、メタファー法ですね。毎日使い続けることで、健康が保てる化粧品なのです。そこでコンセプトを、「滋養活性」としました。はじめは、「滋養」だけだったのですが、それで肌はどうなるのかを明確に示すため、「活性」を加えることにしま した。手段と結果(ベネフィット)を表現したのです。養命酒で言う「滋養強壮」という訳です。

 

3. 中味設計

近年の健康志向の中、漢方に代表される生薬系の成分が注目されるようになってきました。理由は、即効性は低いものの、副作用がなく、身体にやさしいというイメージがあるからです。また、古くから使われてきて馴染みがあることも、その信頼性に結びついています。加えて、その情報伝達が、最も信頼性の高いと言われるクチコミをベースにしていることも大いに関係しています。

 

新ブランドでもこの「生薬」に着目しました。これまではケミカル(化学的)なイメージの成分が主体で、それらを中心に多くの有効成分が開発されてきました。しかし、自然・天然系の植物成分を謳った化粧品が大きな市場を形成するようになっていたのです。

 

また、各社がこぞって発表する様々な成分達の中にあって、新開発の成分といえども優位性を伝えにくくなっていました。お客さんにとってはどれも似たモノで、どれが優れているのか判断できないのです。加えて、初めて聞くような成分名。各社がいくら「ONLY ONE」「BEST ONE」と言っても、お客さんにとっては「ONE OF THEM」なのです。

 

どちらが本当に 「安心・安全」なのかは論外でした。新開発の成分は、ケミカル系であるかないかに関わらず、作用メカニズムを含めた特長の説明も難しくなっています。一 方、お客さんは盲目的に、「自然・天然系の植物成分=安心・安全」と思っています。このお客さんの気持ち・意識に応えることにしました。もちろん、資生堂 ならではの、本物の「安心・安全」設計で。

 

まず研究所に依頼したのは、漢字やひらがなで書ける成分を探してくださいと言うことでした。知らない名前を化学名のカタカナ言われると理解・記憶が難しくなるのです。鬱金(ウコン)や桂皮(ケイヒ)をはじめ、14種類の生薬からつくられたのが養命酒。新ブランドでも、朝鮮人参・しゃくやく・甘草(カンゾウ)・月見草・ローヤルゼリーなど、巷でも良く知られた自然・ 生薬系の成分から選別して処方することにしました。効果やメカニズムなどをあまり語らなくても、納得・理解されるものばかりです。

 

それらをベースに肌効果理論を構築しました。そのコンセプトは、「肌の良循環」。東洋医学的なアプローチで肌の全体バランスを整えることで健康的で美しい肌を維持しようとする考え方です。まるで、「養命酒」を毎日飲むように、この化粧品で肌のお手入れをするのです。

 

困ったときの応急手当的な化粧品でもなく、何となくスキンケアをしているというのでもありません。きちんと肌を意識してお手入れする化粧品として位置づけるようにしました。お店とお客さんとの長いお付き合いをするための設計です。お店とお客さんとの良循環でもあるのです。

 

4. コミュニケーションの場

化粧品の技術進歩とお客さん感覚のギャップについてもう少し詳しくお話しましょう。

 

化粧品の技術進歩は目覚しいものがあります。大きいのは皮膚科学の進歩ですが、それにあわせ中味処方の技術も進歩してきました。乳化方法をはじめとする製剤技術と効果薬剤の開発などです。実際、私が知る30年位の間に、使用性、効果の面で大きな進歩を果たしています。

 

それに対応し、他 社品だけではなく自社の既存品との優位性をどの様に示すかも工夫がなされてきました。新製品である限り、その点が問われます。まずは本社内で、次に販売部門で。また、対外発表の際にも欠かせない情報となります。そのために、多くの労力が情報開発に注がれます。

 

店頭でも、カウンセリング力を高めるためにと言って、難しい新製品情報を一生懸命に勉強してきました。その情報をお客さんに伝えることでカウンセリングをしていると思い込んでいることがあります。しかし、そこには大きな問題(勘違い)があるのです。それは、メーカーとお客さんとのギャップです。成分も新しいモノがどんどん 発表されるのにあわせ、効果メカニズムもどんどん高度に、かつ複雑化になってきました。お客さんから見ると、どんどん難解になってきたのです。

 

確かにお客さんに も新製品に対する期待があり、どこがどの様に優れているのか、良くなったのかの理由を知りたいと思っています。しかし、お客さんの理解力には限界があります。難しい情報をいくら聞いても、分からないものは分からないのです。その結果、お店によっては、お客さんが理解しやすいように噛み砕いてカウンセリング をするのか、全くしないのかになっていたのです。むしろ、何もしない、出来ない方が多いかもしれません。

 

ここでの誤り(勘 違い)は、町の化粧品屋さんとお客さんとの関係性に対する認識です。この関係で必要なのは、「専門知識」や「カウンセリング」ではないのです。もちろん、これらは重要な要素ではあります。しかし、もっとも大切なのは、「化粧品屋さん=コミュニケーションの場」と言う捉え方なのです。

 

GMS やドラッグストア、コンビニなどと決定的に違うのがこの点です。お客さんは、ただ化粧品を買いに来ているのではありません。ある種、井戸端会議をするよう な気持ちで化粧や化粧品情報を交換していているのです。そこでは、押し付け的なカウンセリングはなく、双方向のコミュニケーションをベースにしたクチコミが自然に行われています。論理的(?)な説得カウンセリングの以前に、お互いの信頼関係が納得のゆく購入に結びついているのです。

 

今、化粧品専門店にとって、左脳的な発想によるカウンセリング販売をする以前に必要なのは、右脳的な発想から生み出される井戸端会議販売ではないでしょうか? お客さんの気持ちに最も近づけるチャネルがこの化粧品屋さんなのです。

 

この新ブランドのコンセプトに隠された「企画=くわだて」がそこにあります。

 

5. パッケージ

時間がない中で、 パッケージのデザインも始めなくてはいけません。中味の方は、処方が決まればすぐに製造できます。今では化粧品薬事は申請するだけで良く、認可待ちの必要がないからです。しかしパッケージは、デザインが決まってから、容器の成型金型や印刷の版を製作する必要があります。何だかんだで3ヶ月はかかるのです。  

 

作業は、まだコンセプトが固まっていない頃からスタートしました。まず、デザイナーを決めるところからです。通常は、企画提案するとデザイン室から担当のデザイナーの案内がきます。しかし、この時はこちらからデザイナーを指名することにしました。20 年以上に亘り多くの企画やプロジェクトを一緒にやってきたデザイナーです。気心が知れていてツーカーで仕事ができることが必要でした。企画内容を説明して 理解してもらってからスタートするのですが、その際に意見が合わなかったり理解に時間が掛かったりすると時間ばかりが過ぎてしまうことが多いのです。

 

いよいよスタート です。コンセプトは固まっていませんが、方向は決めていました。そう、「自然・生薬系」です。まず、デザイン要素の案をこちらから提示しました。あたかも 薬草のエキスが入っているような容器として、「着色瓶」「紙レーベル貼り」。そして、価格表示をしない(価格表示については後ほど)ことから、見ただけで 実価格以上に見えるよう、「光モノ」(金属感)の要素を加えることです。

 

始めにしたこと は、色を探すことでした。とりあえず、薬草のイメージで濃いグリーンの瓶を作ってみました。しかし、どうも面白くありません。どこにでもある「自然化粧 品」になってしまいます。そこで、色々な色で試作瓶を作ってみました。ブルー系、ブラウン系、イエロー系、オレンジ系、レッド系などなどです。濃くした り、淡くしたり、そして濁らせてみたりも。

 

その中から生み出した色は、土の色(ブラウン)がかったレッド、どちらかと言うとオレンジ色をくすませた色です。これまで化粧品にはあまり使われたことがなく、印象的な色でした。結構、コンセプトにも合っていて気に入りました。

 

形状は、先進的な サイエンス感のある無機質なものではなく、伝承的な東洋の生薬感がある有機質なものとしました。中に生薬エキスが詰まっている壺のイメージです。「光モノ」は、キャップに金色の金属感(蒸着処理)をもたせ、瓶の下部にも同じ処理をしました。これで、かなり高級感が出せました。ちなみに、この金属感を銀色 にすると、クールなサイエンス感の方に行ってしまうのです。

 

ここまでで、かなり目標のイメージに仕上がったので、紙レーベルはやめ、直印刷(シルク印刷)にすることにしました。過剰になると洗練さが失われ、野暮ったくなってしまうからでした。

 

出来上がったデザインは、従来型のエレガントなイメージとは異なり、独自性があるものでした。これで、既存のブランドの隣に置かれても十分に差別化でき、明快な訴求が出来ます。あえて言葉で説明しなくても一目瞭然です。

 

ウラ話を加えると、イメージづくりをするにあたって、強壮ドリンク剤を買い集めて参考にしました。終わった後で、誰がそれを飲んだかは覚えていません。

 

そんな事前準備をしながら、コンセプトの詰めと、企画書の作成を進めていきました。 

 

6. ネーミング

今回、キーワードになるのは、「化粧品専門店」」と「生薬」、「滋養」などです。ともあれ、一番初めに考えたのは「化粧品専門店」、すなわち資生堂チェインストアのためのブランドであることでした。扱うお店には、そのことを意識し、自信をもって販売して欲しかったのです。

 

そこで思いついたのは、かつて資生堂チェインストアが元気であった時代のブランド、それも自らが育て上げたと自負をもっているブランドたちです。

 

ひとつめは、昭和7 年(1932)に資生堂を代表する最高級ブランドとして誕生した「ドルックス」。英語で言うデラックスの意味で、フランス語の「DE LUXE(ドゥ  リュクス)」。「ものごとはすべてリッチ(豊か)でなくてはならない」と言う資生堂の文化遺伝子(ミーム)のひとつを表しています。このブランドは、太平洋戦争の頃から生産が中断していたのですが、チェインストアや愛用者から発売を待ち望む声があり、昭和26年(1951)に蘇りました。それから、チェイ ンストア全盛の時代に向かったという経緯があるのです。

 

ふたつ目は、「プリオール」。ドルックスよりも品質の高い商品として昭和37(1962)年に誕生。「先の」「以前の」と言う意味です。私が入社した時の最高級ブランドでした。

 

そして最後は、昭和47年(1972)に誕生した「ベネフィーク」。「天から授かった恵み」と言う意味で名付けられました。第1次オイルショック頃まで続いた高度成長時代の最高級ブランドです。

 

前のふたつはそれ ぞれ事情があり、決まったのは「ベネフィーク」でした。結果は、ブランドストーリーとしてもうまく辻褄が合うものでした。「天の恵み」を言い換え、生薬な ど自然の恵みから、「自然の恵み・大地の恵み」のブランドとしたのです。資生堂チェインストアにとって忘れられないブランドが、救世主のごとく新たなコンセプトとして蘇ることになりました。

 

ネーミングは重要な設計要素です。何かしらの意味付けや物語をもつことでブランド性自体に深みができるものです。単なる「大地の恵み」だけでなく、「資生堂チェインストア」と言うキーワードが背景にあるのです。これもまた、「企画」の一種ですね。あえて言うと「企画力」。

 

7. 価格

価格の設定は、既 存ブランドである「エリクシール」を基準にし、若干高めに設定しました。全く違うブランドであることと、価格が高い方に販売インセンティブが働くと言う化粧品専門店の特性を加味したためです。かと言って余り高くするとワンランク上の価格帯になり、ボリュームゾーンを外してしまいます。

 

価格政策でのポイントは、ノープリントプライス(NPP) でした。商品に価格印刷表示をしないのです。背景としては、「再販売価格維持制度」の問題がありました。当時、ディスカウントに関する裁判でメーカーは勝訴しましたが、小売価格は小売店が決めるものであるとの基本的な考え方が示されました。それを実践するため、商品には表示せず、お店側が作るプライスカー ドなどで価格表記することにしたのです。

 

もうひとつは、価格表示がないので、「○○% OFF」の訴求ができません。よくある「オープンプライス」に似ています。通常は、メーカーの希望小売価格が表示されているので、それを基準にディスカウント訴求がしやすいのです。

 

しかし、問題があります。お客さんへの示し方です。化粧品の場合、電化製品などと違い、スペックや性能で品質ランクが判るというものではありません。「価格」が「価値」を知る手立てになっている場合が多いのです。もうひとつの手立ては、商品を見た印象です。

 

そこで考えたの が、パッケージデザインだったのです。「ちょっと高そうだな」と思っても、価格を聞いてみたら「それ程でもなく安心した」と言う構図を意識しました。全体イメージの作り込みでダメ押しに使ったのが、先に書いた「光モノ」の採用でした。アクセントとして金色に輝く部分をつくることで狙い通りの高級感がある仕上がりになりました。

 

現在は、美白ライン、高級ラインなどが追加されていますが、この最初のラインをベースに相対的な価格感が醸成されています。ブランドの価値が定着してきたとも言えます。

 

とは言え、価格が 表示されていないのは、買う方としては不便なものですね。最近は、商品内容をインターネットで調べてから購入することが多くなっています。私もメーカーのホームページで調べてから決めるので、パソコン関係や電化製品でオープンプライス表示されていると困ってしまいます。それも、大体が売れ筋の商品なのです。各メーカー共に、ディスカウント対策に悩んでいるのが分かります。

 

8. 宣伝広告

宣伝広告は、パン フレットやダイレクトメールなどのお店発の施策に限定し、テレビや雑誌などのマス広告は一切行わないことにしました。ブランドの存在意味から決めたことです。あくまでも個店のブランドであり、個店発の情報発信が基本なのです。個店と個客の関係で成立するブランドとしたからです。 

 

マス広告を行わな いもうひとつの理由は、他のチャネルを刺激しないようにとも考えたからです。大々的にマス広告をすると、集客力がある他のチャネルでもこのブランドを導入したいとの要望が出てきます。そうなると、基本的にはそれを拒むことはできません。結果として、またディスカウントの対象となり、専用ブランドを作った意味がありません。

 

マス広告で集客して販売するブランド・商品ではないとすることで、チャネル拡大を防ぐことにしたのです。すなわち、個店発の情報発信・カウンセリングがないと売れないブランドとしたのです。その分、納入掛け率を調整したりして、小売店の経営を支えることにしました。

 

最近では、「ベネ フィーク」が化粧品専門店の専用であることが市場でも定着したことや、他のチャネルでも専用ブランドを導入するなどがあり、少しずつ広告の出稿をするよう になりました。しかし、その内容は、集客のための広告ではなく、化粧品専門店の存在告知とブランドの保証広告的な意味合いが強いものです。

 

9. 売上計画

売上計画の策定は単純でした。取り扱い対象のお店をピックアップした上で、競合関係になった「エリクシール」ブランドの売上から換算しました。基本は、3分の1が「ベネフィーク」に移行するというものでした。新たなブランドが増えるので全体の売上も上があると考えがちですが、あえてそのようには設定しませんでした。あくまでも、足して100です。

 

その理由は、プラス分の計算が難しかったのがひとつ。もうひとつは、もし高く設定してその計画に到達しないと、失敗ブランドと言う印象を内外に与えてしまうからです。ブランドの評価は、何故か計画比で決まってしまうことが多いのです。計画の精度や計画値の設定能力の方は問われません。

 

<その後

このようにして誕生した「ベネフィーク」も、今や、美白ラインや高級ライン、そしてメーキャップ化粧品やヘア化粧品などが加わり、トップブランドに迫る売上へと成長しています。