ヘソを掴む 

 

 

コンセプトワークで大切なのは、「ヘソをつかむ」こと。

ここでのテーマ商品は、「オードブラン」と言う美白化粧品です。

 

企画にあたって、まずは様々な情報を集めることから始めます。対象顧客の間では、どんなものが流行り、買われているのかと言ったトレンドを知ることが大切です。時代の空気と言っても良いでしょう。化粧品ではどうか。それ以外のものではどうなのか。音楽や映画などの情報も重要です。

 

次に、集まった情報の中から何をどのように参考にしたら良いのか。丸いものが売れているから、丸いデザインにしよう。赤い色のものが売れているから、デザインには赤色を使おう。まさか、そんな風に考えてはいないでしょうね。

 

競合他社でヒットしている商品があると、その市場への参入をするために、似たようなデザインの商品が相次いで発売されたりします。ただの模倣で、2匹目のドジョウを探しに行くのです。

 

これはこれで、結構、的を射た方法であり、そこに象徴的なワードや形態などがあればそれを採用するだけで通用する場合があります。「コエンザイムQ10」の爆発的なヒットの元では、「Q10」と大きく表示さえすれば、追従商品でもご相伴にあずかって売れることもあります。

 

商売的には正しい方法だと思いますが、企画者としては、面白い仕事だとは思いません。そんな仕事は、モノづくりの作業でしかなく、企画魂の出る幕ではないのです。

 

ある時、ヒットしている他社の商品に対抗する商品を作るようにとの要請がありました。そうです。「創る」ではなく、「作る」のです。今回は、この仕事を、「作る」から「創る」に変えたお話です。

 

その商品は、濃紺のボトルに漢字3文字の名前が象徴的な美白用の化粧水でした。発売した時にはそれ程ではなかったのですが、じわじわと売上が上がってきてヒット商品になったのです。

 

早速、企画に入りました。まずは、その商品の研究からです。どこの会社でも同じかと思いますが、技術的な分析やユーザーの声などを調べます。そこで、その通りに設計したら「作る」で終わってしまいます。

 

私達は、それらの情報に加え、ユーザー達の生活の中から何かが分るのではと思ったのです。彼女たちが日頃買ったり、使ったりするようになっているモノ・コトについても情報を集めることにしました。   

 

化粧品やファッションなどの直接関係する分野以外によく使うのは、食品、雑誌などがあります。食品であるとお菓子や飲料など。雑誌はファッショ ン誌です。各社も市場の分析をして発売している訳で、違った視点から時代を見るのに役立ちます。さらには、ヒットしたとか失敗したなどの結果も見ることができ、他社でテストマーケティングをしてもらっているとも言るのです。

 

このように、化粧品と違うモノ・コトから時代の空気とも言える新しい価値を探すのは大切です。同じ分野からだけ見ていると、色とか形と言った表面的な部分に囚われてしまうのです。競合品分析もほどほどにした方が良いと思います。

 

この時は、美白の化粧水と言うことで、サプリメントの方からアプローチしてみました。若い人(女性)たちが体に良いもの、美容に良いものとして どんなモノを取り入れているかです。さらに、どんな気持ちで、どんな形で取り入れているかを探ることで何かが見えてくるだろうと思いました。

 

早速、その視点からのアプローチを始めることにしました。 

 

その時期、多くの飲料が相次いで発売されていました。特に、ポカリスエットのヒットで始まるスポーツドリンク類の発売が目立っていました。流れとしては、 コーラ、ジュース、その他炭酸飲料などの飲料の流れが変わってきたようです。傾向としては、「甘さを抑え、健康・ダイエットに良い」です。更には、ビタミ ン・ミネラルなどが配合されて身体に良いと言った積極的な効果を謳ったモノに人気が集まるようになっていたのです。

 

世の中全体の健康志向の流れがあり、当然の成り行きだったと思います。その中に、もうひとつのキーワードを発見したのです。それは、「軽さ」。スポーツドリンク系でも、段々、軽くなっているのに気が付きました。

 

ジュースにしても、「果汁100%よりも10%」。炭酸飲料では、「微炭酸」。そう言えば、化粧品でも、「乳液」の使用率は下がって、「化粧水」タイプが多くなっていました。

 

何かしら重さを感じるモノよりも、軽く負担感がないモノを身体が、そして気持ちが求めているのでは? と思ったのです。気持ちの面で言うと、「気合を入れ て」、「頑張って」ではなく、「自然に」、「気楽に」、「気軽に」と言ったキーワードが思いつきました。「気持ちよく」であり、その先に「ラクをしたい」 と言った「時代の気分」なのです。

 

もうひとつ、その流れの中であったのが、「自然・天然」です。「サイエンス・ケミカル(化学)」ではなく、「ナチュラル・植物」なモノを求めるようになって いました。身体に良いと言っても、決して「ケミカルな薬剤」ではなく、「植物抽出エキスなどの生薬系」なのです。「安心・安全」であり、身体への負担が無 いモノが時代の気分になっていたのです。皆、「ラク」でいたいのです。

 

そのような分析から、商品の設計を始めました。

決して、他社品の物真似ではない、真の企画としてです。他社品がヒットしているのは、同じ理由なのか、別な理由なのかは分りませんが、全く独自のアプローチで新しいコンセプトを作りました。

 

コンセプトは、「天然植物から搾り出された『しずく』」。その「へそ」になるのが、「ライト感覚」なのです。ただ、物理的に「軽い」のではなく、そこから は、「気軽」「気楽」「爽やか」「心地いい」「負担感がない」「面倒でない」「やさしい」「安心・安全」・・・などのキーワードが出てきます。

 

これらのキーワードをもとに、設計を開始しました。

 

中味はそのまま、「天然植物から搾り出された『しずく』」。トロッとした液状ではなく、化粧水のようにサラッとしたタイプに仕上げました。しかし、ただ単なるしずくではなく、植物のエキスがたっぷりと溶け込んだように白濁しています。もちろんその中には、美白効果のある植物成分や美肌成分が含まれています。実は、美白効果を高めるため、安定持続型のビタミンCも配合されていたのですが、折角の「ライト感覚」の気分を害さないようにあえて訴求はしませんでし た。

 

パッケージのコンセプトは、「天然植物から搾り出された『しずく』」を溜め込んだ器。デザイナーから提案されたのは、「丸フラスコ」でした。一瞬、「フラスコ=化学実験=自然感がない」というイメージが頭をよぎりましたが、検討した結果、採用することにしました。見た目でも物凄く斬新で訴求力があったからで す。コンセプトそのままで作ると、よくある自然派化粧品で終わってしまうところでした。

 

そこで考えた理屈は、「自然と化学の融合」。結果として、中味の効果感を引き出すことが出来たと思っています。カラーは軽さを感じる明るいグリーン。若草を感じる健康的なトーンに仕上げました。化学実験=冷たく無機質のイメージは全く無く、むしろ、丸くて「可愛い」のです。

 

実は、初めに出された「フラスコ」には、台座になる部分があったのです。丸フラスコなので、倒れてしまうのではと心配してデザインしたようです。でも、それでは「フラスコ」には見えません。説明されて分るデザインは、駄目。そこで、要請したのは、ズバリ、「フラスコ」。「フラスコ」と分るデザインになって、 求めていたコンセプトを具現化することができました。

 

商品名は、「オードブラン」。フランス語で、「白の水」。すなわち、「美白に良い植物抽出エキス」の意味で、ゴロも良く、気に入っています。

 

さて提案です。

ヒットしている他社品とは全く別なモノが出てきたので、皆さんビックリ。と言うより、批判的な意見が出されました。何故、同じようにしないのかと。企画をしたことがない人、企画を知らない人には理解できなかったようです。私達は、他社品を使っている人の気持ちの中に踏み込んで商品を企画・開発したのです。そこ に新しい市場があるのを他社品が気付かせてくれたのです。(その会社の企画者も気付いていないのかも知れません。)

 

もし、同じような色・形・商品名だけをベースに作ったらどうでしょう? 真にお客さんが求めているモノとは程遠いモノが出来てしまうことがあります。全くのコピー商品で宣伝も同じであればそんなことはありませんが、恥ずかしくてできません。これは、企画魂をどう考えるかの問題なのです。

 

今回のお話は他社品対抗でのケースでしたが、「へそをつかむ」は全ての企画に当てはまります。情報収集・調査などで挙がってくる表面的な情報ではなく、その奥にある「情報に秘められた(込められた)気持ち」を抽出することが重要なのです。「へそ=核=本質」であり、それを捕まえることができれば、出来上がり にブレはありません。もちろん、宣伝などの訴求に際しても同様です。

 

データマイニングと言う手法がありますが、表面的な作業で終わらず「もう一歩」読み込み、「へそ」に近づくようにしてください。そして、つかみ獲るのです。