理屈ではなく「人間」発 

 

 

 人間(消費者)は、頭で考えて行動しているのではありません。心の動きが行動を決めているのです。その心に訴えかけるのがマーケティングのポイントです。

 

商品企画や設計、売り方、宣伝などの打合せをしていて感じることがあります。それは、「左脳的」「右脳的」といった表現が相応しいか分かりませんが、理屈で判断し、理屈で議論しがちなことです。

帰納法や演繹法などの論理展開方法がありますが、それに則った議論でないと勝てないことが往々にあります。「1+1=2」の如く隙のない論理展開ができていると勝ち誇ったように攻めてきます。「こうだから、こうなって、だからこの案は正しいのだ」というのです。公の会議になればなるほどです。決済するトップ には他に情報はなく、それでしか判断できないことも理由かもしれません。 

本当にそれで正しい答えが得られるのでしょうか? マーケティングに限らず社会現象に関係する様々な仕組みは、決してそうではないのに。特にマーケティングは、顧客(ユーザー)を相手にした経済活動です。そこで一番キーになるのが、顧客=人間であること。

人間とは、動物である以上に人間なのです。単に動物であれば、殆どは本能のおもむくままに行動し、比較的その生態・行動は予見・把握できるものです。しかし、人間が動物と決定的に異なる点は、「意思」を持っていることです。そしてこの「意思」が厄介なのです。

まるで、ランダム関数が組み込まれているかのように、一貫性がない行動をします。コンセプト作りの際にイメージするターゲット像は、ある特定のイメージで構 築され、それ以外の要素が削ぎ落とされます。富裕層であれば、100円ショップでの買い物はありえないのです。しかし、コンセプト作りでは必要な手法で も、現実は違うということを知っていなくてはいけません。

私は、「人間とは矛盾の塊で出来た動物」であると考えています。ただ一点だけ行動の根源はと言うと、「欲望=煩悩」にあるのだと思います。通常、社会的な存在である人間は、社会規範に則り、また自分のアイデンティティに則り行動しています。

アイデンティティとは、生まれ育ってきた記録であり、それがラベリングされたものです。よく、クラスター分析などで、顧客をグルーピングしますが、その主な キーはアイデンティティです。しかし、それはオモテの顔であり、行動を決めるのはウラに秘めた欲望なのです。その間の揺れが矛盾を生み出しているのかもしれません。

グループインタビューなどの際にも、その片鱗が垣間見られます。建前ではなしながら、ふと本音が出て、辻褄を合わせようとしてもがいているのを見かけます。でも、それが本当のユーザー実態なのです。それを、報告書では論理的に筋が通るように書き換えてしまうことがあります。

生態観察で重要な のは、細かい点に分解・分析するのではなく、全体を大きく掴み取ることです。この点は、「複雑系」の議論の中でも言われています。そう言う理由で、私は管理職になってからも、グループインタビューには必ず出席するようにしていました。2時間位で何も成果がないこともありますが、ひとつ、ふたつ位はヒントと なる発言をゲットできることがあります。全体の雰囲気、流れから本音や建前の機微を掴み取るのです。それで十分。分厚い報告書は要りませ ん。

一般的には、定量調査・定性調査のデータを使った企画書は、会議用にしか使えません。いかにも論理的に組み立てられた企画書作りのた めにです。企画担当者が企画の切り口を探すため、本当に実態を掴みたいのであれば、データの行間に隠された情報を掴み取り、自らの経験を踏まえて解釈する 必要があります。その際は、データに近寄り過ぎず、遠く離れた視点を保つことがポイントです。相手が「人間」という我儘で矛盾に満ちた動物であることを忘 れることなく。

 

*最近、私の経験則をアカデミックにまとめてくれている本が多く出版されています。

〇 行動経済学 多田洋介 著

〇 セーラー教授の行動経済学入門 リチャード・セーラー 著

○ 経済は感情で動く マッテオモッテリーニ 著   など