エコロジカル

 

 

私にとって、初めてフィロソフィーを込めてコンセプトをつくったのは、「エコロア」(1984)というブランドかも知れません。

 

ここで言うフィロソフィーとは、ブランドのメッセージです。それによる共感でブランドロイヤリティを醸成しようとするものです。大衆(マス)から個に焦点がシフトしてきた時代でもあり、人それぞれに異なるライフスタイルの提案なども含まれます。 

 

それまで、メーキャップ化粧品ではビューティトレンドを踏まえた先進ファッションの提案、スキンケア化粧品では新しい皮ふ理論に基づく美容の提案など、比較的ハード情報をベースにしたコンセプトが主でした。デモグラフィカルにくくれるマス型のコンセプトです。

 

「エコロア」開発の発端は、「自然志向」の流れに対応しようとしたことです。時代は、自然のモノ・植物などに安心・安全を求める流れが大きくなっていました。 オイルショック以降、それまでの高度経済成長・工業化社会・公害などに対する反発・反省から生まれた新しい生活観がその源流にあります。初めはそれ程ではなかったのですが、この時代になると無視できない勢力になっていました。

 

当初は、単なる自然派設計からスタートしました。植物成分としてオリーブバージンオイルを配合したフィトモイスチュア(Phyto:植物)化粧品だったのです。もちろん、単なる植物配合化粧品ではなく、不純物が多く含まれている植物から必要な成分だけを抽出して配合したピュア処方です。

 

この段階までは、スキンケア化粧品だけの開発で進行していました。そこにメーキャップ化粧品も加えることになり、急遽、私が参画することになったのです。

 

もう、基本コンセプトはできていました。しかし、メーキャップ化粧品でこのコンセプトを踏襲するのには無理だと思いました。一般的に、スキンケア化粧品と メーキャップ化粧品が一緒のブランドは、コンセプトづくりが難しいのです。両方をブリッジしてくくる上位コンセプトが必要になります。そこで私は、メー キャップ化粧品を組み入れるためのコンセプトワークを始めることにしたのです。

 

先ずは、いつものように書店に行きました。

そこで見つけたのが、井上優氏(元電通)の本でした。都市(街)作りのためのコンセプトブックだったような気がします。そこに、「エコロジカル」のことが書かれていたのです。

 

自然環境を大切にすると言った、単なる「エコロジー」ではありませんでした。禁欲的、即物的で、○○運動のように肩に力が入った主義主張ではないのです。むしろ、肩の力を抜いた「気持ち」がその精神の中心にありました。それは、最近の「LOHAS」に通じる気分です。

 

とは言っても、「エコロジー」が原点であることには変わりありません。以前に書いた「へそをつかむ」にあるように、その心を抽出することにしました。そして出てきた言葉は、「共生」・「無理のない」・「優しい」・「自然体」・「相互理解」・「コミュニケーション」など。「競争」・「対立」・「自己中心」と 言ったそれまでの時代とは対極にある概念です。

 

この「エコロジカル」と言う概念でブリッジをつなげることで、スキンケア化粧品とメーキャップ化粧品からなるブランドコンセプトを作ることができました。「エコロジカル」な気持ちで使ってもらえる化粧品です。そんな化粧品だからこそ多くの人の共感が得られると考えたのです。

 

ブランド名は、「エコロア」。もちろん「エコロジー」を変化させた造語です。実は、スキンケアの設計コンセプトだったオリーブから発想した「オリージュ」 (オリーブの樹)が第一候補だったのです。しかし、私が提案書を書くことになり、第2案の「エコロア」を私が意図を加えて仕上げたため、最終的には「エコ ロア」に逆転してしまいました。後で課長に怒られましたが、「してやったり!」です。これも、企画。

(自分の主張を通したいのであれば、自分がまとめ役を買って出ることですね。提案書や会議の議事録などの作成で重要なポイントです。)

 

しかし、このブランドは成功したとは言えませんでした。色々な要因がありましたが、商品設計面でも決して「エコロジカル」ではなかったのです。外装には塩ビ 素材が使われていました。何品か買ったお客さんにとってはゴミの山となってしまったのです。ちっともエコロジーではなかったのです。

 

その原因は、コンセプトが後から出来たからでした。教訓以上に反省しきりです。コンセプトがあって、モノづくりがスタートするのが当たり前ですよね。

 

こんな失敗を重ねながらも、以後、ユーザーの琴線にコミットメントできるメッセージが込められたコンセプトワークを意識するようになり、企画の仕事がまた一段と面白くなりました。

 

おまけ・・・

その時に、もうひとつのキーワードを発見しました。それは、「真・パーソナル」です。

差別化欲求に対応した多品種・少量生産に疑問を感じて生まれた言葉です。これからは、他者との違いで自分を表現するのではなく、真に自分という個人に相応しいモノを求めるようになるのではないかと思ったのです。ですから、「新・パーソナル」ではないのです。

さて、今の時代は?