『壁が見えたら、しめた』と思え。 

 

 

『壁が見えたら、しめた』と思え。 

これは、企画者にとって非常に重要な言葉だと思います。ある企画での経験からこの言葉が頭に浮かび、今でも大切にしています。

 

企画を考えていくと壁にぶつかることがあります。今回は、その壁に対してどの様な態度で臨むかの問題です。「難しいので他の案を考えることにしよう」と簡単に諦めてしまうことはありませんか。企画に限らず、仕事上の様々な課題についても言えるお話しです。

 

それは、「パーキージーン」と言うブランドでパレット用の口紅を企画していた時でした。「パーキージーン」は、10代後半から20歳前半の若い人向けに作られたメーキャップ化粧品中心のブランドです。ブランド名の意味は、「陽気でおしゃまなジーンという名の女の子」。

 

パレットにアイシャドー・ほお紅・口紅などのアイテムや色が自由自在にセットできる楽しいメーキャップ化粧品でした。設計上の特徴は、パレットにセットでき る以外に単独でも使えると言うものです。1品(1色)毎にはコンパクト式(貝のように開き、フックで留める仕様)の小さな容器に収められているのですが、 パレットに入れて多色使いをする時は蓋が不要になるので、中皿だけを取り出してセットするのです。1色が情報の1単位と言う意味で、「ビット(bit)」と言う単位名称をつけました。10色あると10ビットです。

 

アイシャドーやほお紅の設計は問題がありませんでした。しかし、追加で口紅を作る時に困ってしまったのです。口紅は油性の練り状なので、固形とはいえ粉状の アイシャドーやほお紅と一緒にセットすると、口紅の中に粉が混じってしまうのです。そこで、混入防止のため、口紅の中皿には蓋を付けることにしました。 が、そこで困ったのです。

 

問題は、単独で使う時のコンパクト容器にも蓋があるので、蓋がふたつも付いた仕様になることでした。使い勝手が悪すぎます。だったら、蓋をひとつにすれば良 いことになります。しかし、実はそれが難しかったのです。単独使用では、コンパクトの蓋はフックがカチッと閉まっていなくてはいけません。一方、パレット にセットした中皿は、軽く乗っている位でないと使いにくいのです。

(セットした場合でも、結局、蓋は都合ふたつになります。しかし、単独使用でふたつの蓋がある場合とは違い、殆ど違和感や使い勝手の悪さは感じません。逆に、粉状のアイテムと一緒に使うことで、その意味と共に親切設計が理解されるのだと思います。)

 

では、あなたでしたら、どうしますか?

 

あれこれ考えた挙句、ギブアップ。課長にそのことを言いに行きました。もちろん、出来ない理由も付け加えて。しかし、課長は許してはくれません。それができ ないと、単独でもセットしても使えるというパレット化粧品「パーキージーン」のコンセプトは守れないと言うのです。突き返されてしまいました。

 

仕方なく、また考え始めることにしました。結果的には、実用新案レベルの設計を考え出し、何とか形にすることができました。(文章で書いても分りにくいので 省略します。) やればできるのですね。よく、パズルを解いていてできないと、自分の能力を棚に上げ、パズル自体の設計がおかしいのではと疑ってしまうこ とがあります。それと同じで、課題自体が解決不能なのではなく、単に自分の能力の問題なのです。

 

能力と言いましたが、実は「取組む気持ちと努力」の問題であることに気がつきました。「問題=壁」にぶつかり、チョッとは考えて解決できそうもないと思うと、「無理だ」とすぐに判断して引き返してしまいます。実は、そこからが本当の勝負。真の企画者になるか単なる作業者になるかの分岐点なのです。

 

簡単に解決できてしまう問題は、壁もなく誰でも通り過ぎることができます。むしろ、まだ誰も越えたことが無い壁や越えることが出来なかった壁の先にこそ、新しい世界・価値があるのです。その様な壁はいつも、企画者の自信を喪失させる程の威圧感をもって目の前に立ちはだかっています。私も一瞬、後ろを振り向いて引き返そうと思うことがよくあります。

 

しかし、宝の山がその先にあるのが分っているのに壁に怖気づいて引き返していては、何も掴むことはできません。ですから、「壁が見えたら、しめた」と思う気持ちが大切なのです。そうすると、希望と勇気が涌いてくるのです。

 

あとは、その壁をどの様に越えるかを考えるのです。梯子を架けるのも、爆弾で破壊するのでも、下にトンネルを掘るのでも、ノミと金槌でコツコツ壊すのでも良 いのです。空を飛ぶのでも、壁が無い所まで遠回りするのでも良いのです。どの様なアプローチをするか自体がクリエーティブであり、企画力の見せ処とは思いませんか。

 

よくあるのが、簡単な答えを出して納得してしまうこと。会議や打合せなどでは深く考える時間がありません。大体が、一瞬一瞬の判断で意見交換や議論が行われます。各自、その時点でもっている情報・知識・経験などをもとに発言しています。ただ、論理的にスジが通っていれさえいれば、正しいと思いがちです。実は、頭の中で辻褄あわせをしているだけなのです。壁の向こう側に行けたと思っても、横道にそれていることがあるのです。

 

会議や打合せは、色々な意見が出されることで情報が増え、発想が広がるメリットがありますが、表面的な議論で終わり、もう一歩の突っ込みが足らない場合があるので注意が必要です。

 

壁にぶつかった時、思う言葉がもうひとつあります。それは、「他の誰かが解決したら。他のメーカーからそんな商品が発売されたら。」です。もし、そんなこと になったら、悔しい以上に恥ずかしいと思いませんか。企画者魂が傷ついてしまいます。企画者・開発者には、出来ない理由(言い訳)は要りません。どうしたら出来るのかだけを考えるべきなのです。

 

まずは、壁にぶつかったら、引き返す前にこの言葉を思い出してください。

『壁が見えたら、しめた

引き返してしまった途中で、「そうだ あれは『壁』だったのだ。」と気が付いても遅くありません。 

 

それにしても、管理職・リーダーの役割って大切ですね。獅子が我が子を崖から突き落とすが如く、決して甘えされてはくれません。

今でも感謝しています。

 

追記

余りにも提案の差し戻しをすると残業時間が増えてしまいます。特に最近は、残業問題が厳しく言われるため、適当なところで終わらせてしまうことが多くなりま した。考え抜くことが企画力の訓練には必要なのですが、つい自分の手を出してしまいます。部下を育てるのが一番の役目である管理職としては、悩みのタネでした。